PRPUB Bibliography

 実際の広報の業務に役立つ本はないか、というお問い合わせをしばしばいただきます。
 そこで、私の手許にある広報に関する書籍からいくつかをご紹介することにしました。IRや社内広報に関する本も含めました。コメントはもちろん私の独断によるものです。
 書誌学的な意味を多少持たせたかったので、あえて絶版本も掲載しました。広報の本はあまり売れないというのが定説です。したがって、いまの出版界の状況では印刷部数も少なく、早期に品切れや絶版になる可能性があります。絶版と表示していない本でも、すでに入手が困難になっているものもあるかもしれませんので、お含み置きください。掲載の順番に特段の意図はありません。コメントをお読みになってご判断ください。
広報実務の本

図解でわかる現場の仕事 広報・IR部 君島邦雄監修 インデックス・コミュニケーションズ 2006年 

 PRPUBの主宰者が監修した学生・新入社員向けの広報・IR業務のガイドブック。広報とIR、両方の実務を解説した本は初めてだろう。初心者向けを意識してやさしく書いたが、内容は盛りだくさんで最新の動向についても説明している。初めて広報部やIR担当に異動した人が最初に目を通すのに適していると思う。

 

Effective Public Relations 9th edition  Scott M.Cutlip et al Pearson Prentice Hall (Pearson Education Inc.) 2006年 

 1978年に米国で発行されて以来版を重ねている世界で最も有名なPRのテキスト。著者の名前をとって「カトリップ」とか「カトリップの教科書」と略称される。内容はPRのコンセプト、歴史から始まって、倫理、法律、対外広報、社内広報、メディアとのつき合い方、マネジメント、実践とほぼすべてを網羅している。古い版の和訳本が出版されたことがあるが絶版。06年8月現在、日本広報学会でこの新版を翻訳しようというプロジェクトが立ち上がったところだ。
プレスリリースのつくり方・使い方 蓮香尚文著 日本実業出版社 2006年 

 プレスリリースの制作・配信会社を経営している人が書いた本。極めて実践的で、プレスリリースを作成するときの考え方やコツがよくわかる。しかし、ここに紹介されている実例は、著者流とも言えるもので少し特殊である。どこの企業もこれをそのまま引き写してプレスリリースを発信することはお薦めできない。読者は、この本に書かれている普遍的本質的な部分と特異的な部分をよく見分ける必要があるだろう。
絵解き 広報活動のすべて 山見博康著 PHP研究所 2005年 

 著書は元企業の広報部長をしていた人。実は著者からこのページで紹介してほしいと直々に売り込みをかけられた。面識はないが極めてアグレッシブな方とお見受けした。この本の序章のタイトルは「企業はハダカでは歩けない」である。なかなかうまいコピーだし、一面の真理ではあるが、広報に対する誤解を招きそうにも感じる。広報のあり方を考えると言うよりも、実務を知るのに役立つ本と言える。読むほどに著者のアグレッシブさが伝わって来る。
入門 パブリックリレーションズ 井之上喬著 PHP研究所 2001年 

 残念ながら著者にお会いしたことはないが、井之上氏は著名なPR会社経営者であり、理論家である。上の本とは逆に広報の理念について詳述している。この本はマニュアルではないから、これを読んですぐに仕事に応用するわけには行かない。しかし、広報の仕事に携わってしばらくたってから、自分の仕事をレベルアップさせようというときには、何らかのヒントが得られるかもしれない。そういう本である。
プロフェショナル広報戦略 世耕弘成著 ゴマブックス 2006年 

 2005年の郵政総選挙で自民党が圧勝した。その裏には綿密に仕組まれた広報戦略があったということが書いてある。それが真実であるかどうか外部からは検証できない。しかし結果だけを見れば成功であった。著者の参議院議員は元NTT広報部報道担当課長としていくつもの修羅場をくぐり、ボストン大学の大学院で広報を勉強したキャリアを持つ広報の専門家である。日本の選挙でも米国と同様に広報戦略が重要なカギを握るようになったことは、広報を仕事にしている人間にとっては喜ばしいと言うべきだろう。一読の価値がある。
広報が会社を救う 広報力が会社を救う 萩原誠著 毎日新聞社 2003年 

 4年半にわたる広報室長の経験を基礎として書かれている。実際の企業広報のダイナミックな活動を知ることができるし、現役バリバリの人にとっても違和感なく読める。著者は人脈づくりの名人で、その幅広い人脈から得られた情報が詰め込まれている。広く企業の広報担当者に推薦できるが、とくに部長とか室長といったポジションにおられる方々に一読をお薦めしたい。PR会社の担当者が企業側の広報の考え方を知るのにも好適だ。自治体広報についてもページを割いているが、執筆当時の著者はこの方面の経験がまだ足りなかった。その後の経験を書き足してほしいものだ。
ブランドは広告でつくれない ブランドは広告でつくれない アル・ライズ、ローラ・ライズ著  共同PR訳・監修 翔泳社 2003年

 ブランドの構築はPRが担うべきであり、広告はそれを維持するためだけに使うべきだと著者は主張する。PR会社がいち早く邦訳したのもなるほどと思わせる。ここで主張されているPRの機能は、日本の企業広報や広報学一般の概念であるコーポレート・コミュニケーションとは少しその立場を異にする。が、このようなマーケティング的な考え方も広報の重要な側面であり、これからさらに大きなポジション(著者はpositioningの概念を最初に唱えた人だそうだ)を占めることになるだろう。刺激的なブランド論である。
戦略広報の手引き 加固三郎著 東洋経済新報社 1984年 絶版

 いまや広報の古典的テキスト。その後の多くの文献に引用されている。70年代、広報が重視され始めた時代を背景に、広報への著者の思いが熱く語られている。その後のバブル期の環境変化を経たいま、事例などには古さを感じるが、該博な知識と識見に基づいて説かれる広報の基本は不変である。著者が物故し、新版が望めないのは残念。
企業広報の手引 堀 章男著 日経文庫 1985年 現在は新版

 簡便かつ実用的な広報のガイドブック。豊富な広報実務経験から書かれていることが一読するだけで理解できる。本文も実践的だが、各章にたとえば「記者会見の手順」とか「緊急時の本社と事業所間の連係」といったチェックポイントが箇条書きで示されているのも特徴。これはなかなか役に立つ。広報実務に携わっている方には持っていて損のない便利なハンドブック。98年に新版となって、一部が書き直されている。

実践企業広報マニュアル 篠崎良一著 オーエス出版社 2001年

 著者はPR会社の人。実践的なマニュアルだが、取り立てて特徴があるわけではない。それでも拾い読みしていると、なるほどなあ、と思うところがたくさんある。広報のマニュアル本とはそういうものであるらしい。だからどれか1冊あればよいというものでもない。もちろん購入しただけで本棚を埋めているだけでは意味がない。一通り目を通しておいて、その後は、時々の必要に応じて開くのが正しい広報マニュアルの使い方ではないだろうか。

広報110番 電通パブリック・リレーションズ編著 電通 1998年 

 「実務事典」と副題がついているように、各項目が見開き2ページに手際よくまとめられている。日本最大のPR会社の編著だけに、現在出版されている広報の実務書の中では最も実践的かつ実用的。初めて広報の実務につく人の教科書に適する。ベテラン広報担当者も、このに書かれている広報業務と自社の業務内容を一度照らし合わせてみると、得るところがあるだろう。
好感をつくる企業広報 日経連広報部編 日経連広報部 1990年 

 Tよいイメージとは、Uイメージアップ・あの手この手、V技術広報の考え方の三章からなる。それぞれがさらに細分化され、計14名の著者によるアンソロジー。極めて観念的なことを書いている人もいれば、かなり具体的な手法を書いている人もいて、レベルはバラバラ。中では上野征洋氏による「社長の演出と広報の役割」と八木誠氏の「取材インタビューでの心構え」は、他の本では得られないノウハウが書かれていて一読の価値がある。
広報が会社を強くする 博報堂コーポレートコミュニケーション局編
日本経済新聞社 1997年


 企業広報の事例集。博報堂のクライアント企業の事例を接待半分で取り上げたものだろうが、なかなか面白く読める。広告代理店的発想で広報を取り上げると、こういうことになるんだなあ、ということがよく理解できるし、広報の手段て、ほんとにいろいろあるものだ、と気づかせられる。挿入されているコラムも視点がユニークなものがあって、それなりに充実している。
図解でわかる部門の仕事 広報部 佐桑徹著 日本能率センターマネジメントセンター 2001年

 広報部の仕事の概略。自社の広報業務の穴を探すのにはよいかもしれないが、ディテールに言及している部分と建前論で流している部分が混在している。著者が経済部記者の経験を持つためか、記者側からの視点が多少感じられる。また緊急時対応の部分は、東商のマニュアル(下述)を下敷きにしている。
広報の理論・歴史など
PRを考える 山根英夫監修 小倉重雄著 電通 1976年 絶版

 電通選書の一冊。「パブリック」の起源から、欧米と日本のPRの発展を歴史的観点からまとめた、カバーデザインからは想像できない硬派の内容で、広報の理念を勉強するには好適だ。広報を専攻する学生の参考にもなるだろう。初版はロッキード事件の起きた年。胡散臭い広報屋が暗躍していた時代から、企業の社会的責任が問われ、近代的な広報の時代へと大きく変化しようとした時代背景をこの本から感じることができる。
レピュテーションマネジメント R.J.オルソップ 他著 日本実業出版社 2005年

 米国では以前から雑誌などで企業の評判に関するランキングなどが発表されていたが、エンロン事件の後はさらに企業に対する社会の評判が重要であるとの認識が拡大した。この本は、米国の有力企業が進めている評判を高める施策について紹介したもの。具体的な事例が数多くて読みやすいが、日本で生活している我々は、米国企業の評判を日常肌で感じていないので、その変化が十分に実感できず隔靴掻痒の感もある。
コーポレート・レピュテーション C.J.フォンブラン 他著 東洋経済新報社 2005年

 2005年には企業のレピュテーションに関する本が日本で4冊刊行されたそうである。これもその1冊。企業の評判に関して一通りの理解が得られるが、この本の主目的はレピュテーション指数(RQ)という評価・定量化手法を紹介することにある。となれば、その評価をどこかに依頼しなければならない。ではそれを承りましょうというのが電通である。この本は電通社員の手によって翻訳されている。だからといって、この本の価値が低いということではないが。
コーポレート・レピュテーション 櫻井通晴著 中央経済社 2005年

 著者の櫻井教授の略歴を拝見すると会計学の大家であるらしい。日本人が書いた本だけに、レピュテーションについてわかりやすく解説されている。とくに前半がよい。ところが後半になると、一転してバランスト・スコアカード(BSC)の話になる。会計学者の地がここに現れる。読んで損はないが、コーポレート・レピュテーションについて学ぶためなら、前半部分だけで十分な気もする。
企業広報講座 全5巻 (財)経済広報センター監修 日本経済新聞社 1993年 絶版

 経済広報センターが中心となってまとめた企業広報の集大成。T経営と広報、U企業イメージと広報、Vマスコミと広報、W企業文化と広報、X危機管理と広報の5巻構成。後にも先にも日本にこれだけの規模の広報に関する出版物は他にない。それだけに広報のほぼ全てが豊富な事例とともに網羅されているが、大部だけに読み通すのは容易ではない。かといって事典的な使い方をするには内容が少し散漫。当代の広報理論家総動員の力作ではあるが、彼ら自身のマスターベーションと言えなくもない。
現代の広報 藤江俊彦著 電通 1995年

 「戦略と実際」と副題がついているが、広報の実際の手引きと言うより、広報の業務を網羅して記述した本という性格が強い。各種の文献や事例からいいとこ取りをしたような印象で、広報業務の現場とは多少距離感がある。しかし、うまくまとめられている点ではいま手に入る広報関連の出版物の中では一番だろう。事典的に使えるので一冊持っていると役に立つこともある。電通版は絶版。現在は同友館刊。装幀も左の写真とは異なる。
企業の発展と広報戦略 経済広報センター監修 猪狩誠也編 
 日経BP 1998年


 日本における広報活動の発展史。この本がまとめられた1998年という時点は、戦後からスタートした日本の広報の歩みを発掘し、記録するためのデッドラインであったと思われる。今日の実務に役立つ本ではないが、将来、日本の広報学の発展に伴って価値を増して行く一冊だろう。
デジタル時代の広報戦略 林利隆・亀井昭宏編 早稲田大学出版部 2002年 

 魅力的なタイトルだが、内容は大学の先生たちの小論文の集成。著者の先生方には申し訳ないが、私は途中で読み進む気力が萎えた。学会関係者の皆様には必要なのだろうし、存在価値がある本なのだろうが、広報の実務をしている人間にはあまり用がなさそうだ。
危機管理に関する本
企業危機管理 実戦論 田中辰巳著 文春新書 1999年

 著者はリクルートで秘書課長や広報課長として「危機」を実際に経験した人。この本で一躍危機管理の売れっ子コメンテーターになってしまった。豊富な実体験を例に書かれているので、面白く企業危機のいろいろな面を勉強することができる。よくここまで正直に書いたものだと、その勇気にちょっぴり拍手したくなった。まさに「実戦論」である。企業の裏話として読んでも楽しめるが、それでは著者の意図に反するだろう。
企業危機の法則 野田 稔著 角川書店 2000年

 この本の著者は野村総研の出身者。自らの経験も基礎にはなっているが、そこはコンサルタントらしく、十分に法則として理論化されている。とくに危機になってからの対応ではなく、危機に陥らないようにリスクを発見し、それをマネジメントする方法に多くのメージが割かれている。それはなかなか秀逸な理論なのだが、この本を読むだけではよく理解できないのは残念。直接著者の話を聞くと十分納得でき、感銘できるのだが。
企業・団体の危機管理と広報 経済広報センター編集発行 2000年

 旧経団連系の経済広報センターの編集だけに、広報の担当者や責任者向けというより、企業経営者をターゲットにしているように感じられる。そういう目でこの冊子を読むと、経営者が知っておくべき危機管理と広報の要点が一通り盛り込まれていることがわかる。とくに小島正興氏のインタビューは、すべての経営者に読んでいただきたいと思う。一般の書店では買えないので、入手方法は経済広報センターに問い合わせてほしい。
企業を危機から守るクライシス・コミュニケーション 東京商工会議所 2000年 入手不能

 中小企業向けに東商がまとめた危機に陥ってからのマニュアル。極めて具体的かつ簡潔。お詫び広告の雛形まで例示してある。これなら危機に遭遇してから読んでも間に合いそうだ。これほど要点だけを適切に抽出するにはかなり高度な知識と経験が必要だろう。編集当時の東商広報委員長は電通の会長。その顔をつぶさないようスタッフの気合いが入ったか。一種の名著。
企業を危機から守るクライシス・コミュニケーションが見る見るわかる 東京商工会議所編 サンマーク出版 2001年

 上記の東商のマニュアルを単行本化したもの。本にするには原稿量が足りなかったのだろう。解説が大幅に追加された。それでよくなったか、と言えば逆。もとの簡潔でユースフルなマニュアルのよさが失われてしまった。たくさん書いてあるから価値があるわけではない。しかし、チェックポイントなどはそのまま収載されているので役には立つ。
社内広報に関する本
企業内コミュニケーション 上田利男著 日経文庫 1974年 絶版

 著者が小集団活動の専門家だけに、コミュニケーションの理論から説き起こし、自己申告制度や小集団活動など、企業内のコミュニケーション全般を取り上げている。社内広報と言うとすぐ「社内報」と短絡するのはあまりにも視野が狭い、ということがこの本で理解できる。とは言え、わが国の社内報の歴史をまとめたこの本の一章は貴重。残念ながら絶版。
IRに関する本

企業価値向上のためのIR経営戦略 遠藤・岡田・北川・田中編著 東洋経済新報社 2004年 

 理論編と実践編に分かれている。編著者には実務経験者も含まれてはいるが、内容は少々専門的である。とても初心者向けとは言えないが、IRの現在の水準をほぼすべて網羅しているということに意味があり、この本の重要なポイントである。IRを仕事にしているなら、このくらいは理解していなければならないのだろう、という脅迫観念にかられてしまいそうだ。少なくともIRの責任者や担当役員はこのレベルは理解しておいてほしい。

アナリストのための企業分析と資本市場 北川哲雄著 東洋経済新報社 2000年 

 タイトルのようにこれはアナリストのために書かれている。しかし、IRの担当者にとっても極めて有用である。アナリストがどのような手法で企業を分析しているかを知らなければ、IRはできないからである。さらに、著者の資本市場に対する見識の高さを知ることもIRの担当者にとって有意義だろう。著者は最近学界へ移ったが、長くアナリスト、ファンドマネージャーの職にあり、理論家として鳴らした人。文中に誤植が散見されるのと、動きの早い金融市場だけに少し陳腐化した部分が見られるのが残念。改訂版の刊行が待たれる。

「企業価値」はこうして創られる 本多淳著 朝日新聞社 2005年 

 いまはIR支援会社と大学に籍を置いているが、著者は松下電器で長くIRの実務を担って来た人。松下は日本企業の中では早くから米国証券市場に上場した企業であり、それだけに実務家としては最も豊富な経験を有していると言える。前半はその経験談、後半は経験から得たIR担当者へのアドバイスといった趣。初めてIRを担当することになった人に、この本を薦める。
 多くの松下の出身者が著書をものしているが、共通しているのは会社への想いである。それだけ松下という会社または松下幸之助氏には求心力があったのだと思う。この本を読んでも、その思いはさらに強くなるばかりである。

 

米国IR実務基準第2版 全米IR協会編 日本IR協議会訳 日本IR協議会発行 2003年 

 世界のIRをリードしている米国IR協会(NIRI)がまとめた実務基準。これほど簡潔にストレートにIRの実務とそのあるべき姿を記述しているものは他に見られない。IRの実務家ばかりでなく、経営者にこれをぜひ読んでほしい。
 しかし残念ながら、これは市販されていない。入手方法はIR協議会へ問い合わせてほしい。
実践IR 三ツ谷誠著 NTT出版 2000年 

 IRを自社株のマーケティングであるとの明快な観点から書かれたIRの概説書。IR支援会社での豊富な実体験をベースにした記述は、IRの実務担当者にとって多くの示唆に富む。著者は資本市場とIRに関してしっかりした視点を持っており、それがこの本の説得力の源泉である。後半の資本主義の発展過程に関する記述は、著者の意図は理解できるものの少し冗長だ。IRの知識や経験をすでに持っている人向きの本。
実践IRマネジメント 甲斐昌樹著 ダイヤモンド社 2001年 

 書名通り実践的なIR実務の本。IR関係の本の中には、IR担当者が読むと、机上の空論であったりお題目の羅列であったりして違和感を感じるものが多いが、この本は実際のIRの現場を踏まえていることが伝わってきて、共感できるだろう。実際の仕事に活かせる内容が豊富である。これからIRを手がける人にも、ベテラン担当者にも勧められる一冊だ。
価値創造のIR戦略 藤江俊彦著 ダイヤモンド社 2000年

 IRが価値を創造するのかどうか。首をひねりたくなる書名だが、まとめ上手の著者が既存の文献や企業への取材をもとに構成したと思われるIRの概説書。これからIRを始めようとする人や経営者向きか。すでに日常投資家と対峙しているIR担当者には建前論ばかりで参考にはなりにくいだろう。環境経営やエコファンドについての記述はあるが、もう一つ先の社会的責任投資(SRI)まではカバーされていないのは文献がまだ少ないためか。
IRと株式投資の真実 渡邉恒著 ラジオたんぱ 1999年

 英米における最近のIR事情に関する記述が約3分の1。残りは欧米の企業の例をもとにしたコーポレートガバナンスに関する記述で占められており、これはコーポレートガバナンスの本である。書名は内容をよく表していない。出版元は「IR」を書名にした方が売れると考えたのかもしれないが、読者にとっても著者にとっても迷惑なことだ。言うまでもなく、コーポレートガバナンスとIRが不可分であることは当然のことなのだが。
参考になる読み物
戦争広告代理店 高木徹著 講談社 2002年

 ボスニア・ヘルツェゴビナ政府の情報戦略を担ったPR会社の活動を追ったNHKディレクターによるドキュメント。米国のPR会社の実力やその高度なテクニックなど、広報に携わる人にとって、これほど勉強になる本はない。本書のタイトルが「PR会社」ではなく、「広告代理店」となっているのは、それだけ日本ではPR会社が認知されていない証拠。本文でも「PR企業」という耳慣れない用語が使われている。これも考えさせられる問題だ。
メディアの興亡 杉山隆男著 文春文庫 1986年

 新聞が活版からコンピュータを使った電子製版へ移行する時期を中心に、日本経済新聞社を描いたノンフィクション。日本企業の広報担当者は、日経新聞を抜きにしては仕事にならない。メディアとして、それほど高いポジションを日経新聞が確立するまでのプロセスと、新聞社の内部が、この本を読むとおおよそ理解できる。広報担当者の基礎知識として必読の書だろう。

広報室24時 加藤洋一著 コンピュータ・エージ社 2003年

 「マスメディアと広報室との丁々発止のナマの現実を」小説仕立てでまとめたという読み物。記者と経営者に振り回されてばかりいるなんともだらしない広報担当者が描かれている。そこから広報のテクニックを学ばせようという趣旨だろう。広報の経験をした人は、いかに自分たちは苦労したか、ということを主張したがる傾向がある。かつて広報とはかくも恵まれない職種だったのだが、これもそのような一例。しかし真の広報の仕事はもっともっとクリエイティブなものだ。この出来の悪い小説を読んで、広報の仕事に嫌気をさす若い人が出てこないかと心配になる。だからあまりお薦めする気持にはなれない。

怪文書 六角弘著 光文社新書 2001年

 誰が書いたか不明の文書が怪文書。時にそれが大きな力を持つこともある。最近の企業不祥事は、社内の人間からの内部告発、つまり「怪文書」で発覚するケースが多いと言われる。内部告発者を保護しようという動きも顕在化しつつある。それだけに、このような文書への対応やポリシーなどを確立しておくことが必要だ。しかし、そのためにはこの本はあまり役に立たない。元週刊誌記者である著者の見聞きした事件の裏話がほとんどだ。
広報室沈黙す 高杉良著 集英社文庫(講談社文庫にも収載)

 広報担当者なら読んで見たくなるタイトルの経済小説。ワンマン経営者が牛耳る損保会社を舞台に、熱血漢の主人公に美人がからむという、著者お得意のいつものパターンで話が進む。これが広報マンの仕事かと言われれば、そうだとも言えるし、そうではないとも言える。しかし、広報を一度でも経験した人なら、ある種の現実感と不気味さを感じながら、この小説を読むだろう。
広報のよもやま話
実践企業広報入門 杉田芳夫著 中央経済社 1999年

 著者は長く松下電器で広報を担当した人で、その幸せな職業的自伝とも言える本。題名に惑わされて広報の入門書だと思って購入すると後悔する。松下イズムのもとで広報業務を修行し、実践した人の軌跡を知ることに価値を見いだせるのは、松下の関連会社の広報担当者か、日本の企業文化の研究者くらいだろう。これを読むと松下イズムが社員に与えた影響力に唖然とさせられる。
ザ PR 志村弘雄著 青也書店 1987年 絶版

 著者は元毎日新聞記者。題名からは広報の全てが書かれているように誤解してしまうが、実際は著者の記者時代の思いで話が詰まった雑文集。あえて読む必要はない。
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